表皮の剥離/脱色

革製品は、実に多くの製造法があります。なめし工程で、原皮(生の皮)を長時間染色をするモノとしないモノがあり、
銀面皮革には、表皮(革の皮膚)が付いているモノ(銀付き)と、表皮を除去したモノがあります。
さらに、銀付き革の表面に、着色をするモノとしないモノがあり、最終工程でも、仕上げを施すモノと、素仕上げ品があります。
これ等は製造法の一例に過ぎませんが、皆さんが、革の表面に「色」と認識するモノには、様々な工程を経て表現されているのです。
しかし、この頁では、「表皮(皮膚)自体が剥がれてしまった例」をご紹介します。(色落ちではありません) 革の断面図を参照ください。

 

これは、発揮性がある特殊塗料を使用した製品で、ゴージャスなイメージが人気です。しかし、塗膜が軟らかい上に伸縮性がないため、屈折や接触、または摩擦などで塗料が剥がれる場合があります。この修復例は、部分的な作業のため、高度な感性が必要となります。例えば、「ゴールド」にも多彩な色調があり、周辺と同一の再現が要求されるからです。

 
 
この革は、最終仕上げで3種類のパールが調合されています。肉眼では、バッグ全体が「毛羽立ち」のように白っぽく見える状態。これをレンズで拡大して検査してみると、「表皮のはく離」という深刻な現象が診られました。この症状から救うためには、革の治療と表皮の整形が欠かせません。パール仕上げの技にも熟練が必要です。  
 
この革の場合、表皮が脱落している部分を診ると、白っぽい真皮が確認できます。このような現象を診て、革の「製造法」と「特性」が判明できると同時に、修復の可能性と再仕上げの方法が限定されます。当社の場合、それぞれの革の個性に対して、忠実な復元を目指しているため、数多くの仕上げ方法の中から決定されるのは「一つだけ」です。  
 
この革も、「色落ち」と表現されていましたが、実際には「表皮」が広範囲で、「はく離/脱落」している現象です。この現象は、主に「型押し革」に多く診られます。機械的に温度と圧力を掛けて型を押して造られた革は、長い間の屈折や摩擦などには耐えられない性質があります。一部分でも「はく離」が始まると、間もなく全体に広がります。  
 
オーストリッチ、クロコダイル、爬虫類系は、原皮(生の皮)の段階で水性染料にて染色しており、それが革の個性を引き出しています。従って、革の表面に厚く化粧する製品は、型押し革や偽物を除いて全くありません。つまり、表皮の「はく離/脱落」を発生してしまった場合は致命的です。脱落の範囲が少なければ、表皮の代用として整形が可能です。  
 
この革の場合、粘着テープを付けていた部分が「はく離」しました。天然皮革製品を、「携帯電話機」と勘違いしているのでしょうか?たまに見るのは、バッグやカバンに、プリクラやワッペンなどのシールを貼っているお客様が…。革製品は、「本物だから、デリケートなのだ」と、今一度認識していただきたいですね。  
 
靴のつま先は、歩き方によってはキズや破れが発生し易いものです。特に、この革は「植物タンニン」でなめした製品に類するため、堅ろう(ハード)なのが特徴で、衝撃によって表皮がはく離する場合があります。ハイヒールやパンプスなどの形状(デザイン)には、体重の負荷や変形に耐え得る「堅ろうな革」が多く使用されています。  
 
 
 
この革製品は、私たちの間では「塗り物」と呼ばれている、水性ラッカー顔料仕上げ品。弱点は(写真のように)、革が削れてしまうと、ひどい状態になります。当社の場合、基本的には「手遅れの状態です」とお答えしています。革製品の修復には、原則として「革の命」である表皮が存在していることが条件。ここまで極度な脱落では、大量の樹脂をベースコートしなければ、その先の仕上げができません。  
 
 

ヒールが高くて素敵なデザインのロングブーツです。しかし、革は「クロームなめし」のソフトなタイプですから、変形し易く、摩擦を繰り返していると、キズや磨耗が激しくなる例です。修復がし易い革ですが、限度もあります。つま先や側面、変形して地面に接触した表皮が広範囲で脱落。職人の作業時間が通常の倍ほど費やされる例ですが、仕上がりでは、感触やタッチを含め、お客様の感動をいただける自信作となります。