革の摩耗

 
ほとんどの業者やお客様が、「色落ち」と表現しますが、色ではなく、表皮(革の皮膚)が脱落している現象です。この革は、製造の最終工程で顔料仕上げをしています。無限にある様々な革の中の一部に過ぎません。現在、リメイク、カラーリングを行なう殆どの業者は、「革は色を塗っている物だ」と勘違いしているようです。キズや磨耗に直接塗料を塗ったり、パテ剤でキズを埋めて塗装する業者が増えています。その結果、革は「どうなるのか?」を知る業者は殆どありません。
劣化/変質(べた付き)
 
 
この革は、写真では分かり難いのですが、上のタイプとは異なる感触やタッチがあります。革の基調や個性を、より忠実に保護・維持するためには、まず、スキンケアを施して革の劣化を抑制し、ベースコートと最終仕上げの選択が重要となります。革の表面だけ、どんなキレイな化粧をしても、スキンケアができなければ、寿命を損ないます。また、単なる塗料では、様々な感触、タッチを再現することは不可能です。  
 
表皮が細かく脱落している状態を「革の磨耗」といいます。これを放置したままご使用になっていると、表皮の脱落範囲が広がり、「革のはく離/脱落」になってしまい、修復の限界が近くなります。早期発見、早期治療。それが、革を最も甦らせることが可能で、長持ちの条件です。新調感がうれしいですよ!  
 
この革は、水性仕上げ品ですから、業者の皆さんはご注意ください。ラッカーなどで塗装してはいけません。ダメージをレンズで拡大して診ると、表皮が広範囲に磨耗しています。本来、製造段階からそうである通りに、表皮の整形を、すべて水性型で忠実に加工して行きます。最終仕上げで、「水に強くするため」溶剤型で薄化粧するのが本物の仕上げ!  
 
この革のテーマは、色調と感触です。全体がやや褪色(色あせ)しており、感触が落ちています。お客様に少しでも満足していただけるよう、「色調と感触」には最も神経を使います。だから私たちが楽しみにしていること…。それは、お受け取りに来られたお客様のリアクションです。必ず触っていただきます。「うわ〜!、えっ!、あっ!」 この声が楽しみ(^^)  
 
このバッグは、メッシュとのコンビ。別々の作業を行ないます。四つ角がかなり劣化しており、手遅れか?と思いましたが、これは以外に素晴らしい結果になりました。革のタイプによってはこんな良いこともあるんですね。クロームなめしの革は、軟らかく弾力性があり、当社の修復・再仕上げにも相性がいいようです。  
 
比較的硬いタイプのハンドバッグ。革が硬いということは、「キズや磨耗が発生したら大変だ」と思っておいた方が間違いありません。このバッグは、四つ角のほか、ファスナー、持ち手、その他ふちぶちに表皮の脱落が多数ありました。見た目以上に、「手遅れ寸前」という状態でした。  
 
この革のテーマは、ダメージを修復するだけではなく、「ブラック」ならではの再現です。「えっ、黒は黒でしょ?」いいえ!黒色にも実は多彩な黒があるのです。この製品には、最終仕上げで含金染料を数パーセント調合して仕上げています。それにより、気品が増して豪華な風合いが再現できます。